Research
不整脈
不整脈の治療法は、近年飛躍的に進歩し、カテーテルアブレーションによる頻脈性不整脈の根治、リードレスペースメーカーなど体に負担の少ない徐脈性不整脈の治療、植込み型除細動器や心臓再同期療法などの突然死予防や心不全予防の実現が可能な時代となっている。また、診断に関しても、無侵襲なセンシングデバイスを用いた試みが進み、例えば、apple watchの心電図機能は薬事承認され、不整脈検出の補助的デバイスとして活用されている。これまでに、カテコラミン誘発性多型性頻拍に対する植込み型心電計の有用性1、運動に伴うペースメーカーリード断線の治療法2、左心房に先天的に心耳がない事例3など、いくつか臨床報告を行ってきました。また、心房細動患者のカテーテルアブレーションは、BNPというホルモンが高いほど、術後に運動レベルが回復することを報告しました4。
心房細動は最も多い不整脈の一つで、脳梗塞や心不全、認知症のリスクとして知られています。心房細動を起こすと半分くらいの方に動悸や息切れなどの症状を認め、特に症状のある方には積極的な治療が勧められ、薬物治療に加え、心臓カテーテルによるアブレーション治療(注2)が近年盛んに行われるようになってきています。従来は、心房細動の「症状があるかないか」の判断は医師の問診が標準的とされてきましたが、診療の現場では時間の制約や患者の遠慮などさまざまな要因で、医師がきちんと症状を把握できていない可能性がありました。そこで、心房細動の生活の質を評価するために、AFEQTという症状のアンケートを収集することで、どの程度の医師が症状を把握できているか、症状の把握ができないと治療への不利益が生じるかなどを検証しています。
臨床
不整脈外来
担当:勝俣良紀、担当日時:金曜午前
研究
これまでは疾患の予後の改善に重きが置かれていましたが、近年、QOLの改善にも焦点が当てられ、臨床研究の一部の主要評価項目として、PRO(心不全:KCCQ[Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire]、心房細動:AFEQT[Atrial Fibrillation Effect on QualiTy-of-life]など)や運動能力(Short Physical Performance Battery)が使用される傾向にあります(N Engl J Med 2021; 385:203-216)。我々もこれまでに、心不全や心房細動の疾患レジストリにPROを導入し、患者側の訴え(QOLや重症度)に応じて診断や治療の侵襲性とのバランスを取っていくことの重要性を報告してきました。患者側が自覚している症状と医師が認識している症状には乖離があり、その結果、侵襲的ではあるが先進的とされる医療の提供が不十分となることを報告しています5,6(図1)。このように、医療分野でのICT,IoTを進めるうえで、患者の自覚症状を定量化(数値化)したPROの医療への実装・利活用は必要不可欠と考えています。さらに、このような取組を進めることで、医師側から一方向に提供されるサービスと捉えられることが多かった医療を、医師・患者双方向性のコミュニケーションが可能なサービスに変換することが期待できます。PROを社会実装する取り組みを中部電力と共同研究として、以下の臨床研究を行っております。
「循環器疾患における ePRO の有用性の研究(UMIN000049251)」の研究に対するご協力のお願い(令和4年9月22日~)
1.Momoi M, Katsumata Y, et al. Exercise prescription using an insertable cardiac monitor in a patient with catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia. Heart Rhythm Case Rep. 2021 Oct 21;8(1):17-21. doi: 10.1016/j.hrcr.2021.10.004.
2.Imaeda S, Katsumata Y, et al. Successful percutaneous extraction of a remnant floating pacemaker lead. Case Rep. 2021 May12;14(5):e243128. doi: 10.1136/bcr-2021-243128.
3.Katsumata Y, Takatsuki S, et al. The absence of a left atrial appendage in a patient with paroxysmal atrial fibrillation with a persistent left superior vena cava. Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2017 Mar 1;18(3):374. doi: 10.1093/ehjci/jew227.
4.Katsumata Y, Takatsuki S, et al. A high BNP level predicts an improvement in exercise tolerance after a successful catheter ablation of persistent atrial fibrillation. Cardiovasc Electrophysiol. 2019 Nov;30(11):2283-2290. doi:10.1111/jce.14149. Epub 2019 Sep 8.
5.Katsumata Y, Takatsuki S, et al. Discrepancy in recognition of symptom burden among patients with atrial fibrillation. Am Heart J. 2020 Aug;226:240-249. doi: 10.1016/j.ahj.2020.03.024.
6.Katsumata Y, Takatsuki S, et al. Symptom Under-Recognition of Atrial Fibrillation Patients in Consideration for Catheter Ablation: A Report From the KiCS-AF Registry.JACC Clin Electrophysiol. 2021 May;7(5):565-574. doi: 10.1016/j.jacep.2020.10.016.
本研究に従事している関係者
慶應義塾大学スポーツ医学総合センター
勝俣良紀、
慶應義塾大学循環器内科
白石泰之、香坂俊、北方博規
共同研究機関
慶應義塾大学、中部電力株式会社