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高齢社会を向かえ、心不全、心筋梗塞、心房細動などの予後や生活の質(QOL)に関わる疾患を罹患している患者が急増している。これらの疾患管理において、各種イベント(死亡、合併症、入院)の発生やQOLの推移(今後、改善するのか悪化するのか)予測には、各種モダリティを用いた心臓の評価や遺伝子情報からその予測リスクを正確に予測し、医療者および患者が認識することが重要である。これまでの循環器医療は、心電図やCT検査のような画像データ、心エコーやMRIのような動画データ、採血などの時系列データ等を高度な訓練を受けた専門の医師が解釈し、心血管疾患の診断、治療及び予後の予測を行なってきた。また、それらの検査から生み出された多くのパラメータを用いて、大規模臨床研究を行い、心血管疾患の診断、治療に関する様々なエビデンスを創出してきた。さらに(近年では)、原因遺伝子による予後の違いに関する報告も蓄積しつつある。
一方、検査の精度が増したことで、1つ1つの検査から得られる情報量が膨大になり、得られた情報を処理し、その結果を解釈する作業は、もはや1人の医師が行える範囲を超えてきている。我々はこれまでに、深層学習を用いて、 救急外来受診した胸痛患者の心電図データ(電位の時系列データ)から、カテーテル治療の必要性を支援するツール1や、運動中の経時的な心電図波形から嫌気性代謝閾値を予測し適切な心臓リハビリテーションを支援するツール2(図1)の開発に成功した。2022年には、心不全入院の退院時の心電図から突然死を予測するモデルの開発に成功し(図2)3、植込み型除細動器が必要な患者をより厳密に見つけ出す可能性が広がった。また、2023年には、無症状だと見逃されて、脳梗塞や心不全になったときにようやく発見される心房中隔欠損症を、心電図から高精度で予測するAIモデルの構築に成功した。4。さらに、 これまではほとんど報告されていない、心エコーの動画を用いた深層学習モデルの作成手法5,6,7(図3) を確立した。
これらの技術を応用することにより、現在精度が不十分なため実用に至っていないような心血管疾患の予後予測モデルの精度を飛躍的に向上させ、実用への道を開くことが期待できます。現在、獨協医科大学埼玉医療センターや、Brigham and Women’s Hospitalが共同で以下の臨床研究を行っております。
【図1】
【図2】
【図3】
研究のお願い
画像解析ソフトウェアによる検査所見の判定精度に関する研究に対するご協力のお願い(令和2年4月30日~)
関連の主要論文
1. Goto S, Katsumata Y et al, Artificial intelligence to predict needs for urgent revascularization from 12-leads electrocardiography in emergency patients. PLoS One. 2019 Jan 9;14(1):e0210103. doi: 10.1371/journal.pone.0210103.
2. Miura K, Goto S, Katsumata Y et al. Feasibility of the deep learning method for estimating the ventilatory threshold with electrocardiography data. NPJ Digit Med. 2020 Oct 29;3:141. doi:10.1038/s41746-020-00348-6.
3. Shiraishi Y, Goto S, Katsumata Y et al. Improved prediction of sudden cardiac death in patients with heart failure through digital processing of electrocardiography. Europace. 2023 Jan 4:euac261. doi:10.1093/europace/euac261.
4. Miura K, Yagi R, Miyama H, Kimura M, Kanazawa H, Hashimoto M, Kobayashi S Nakahara S, Ishikawa T, Taguchi I, Sano M, Sato K, Fukuda K, Deo RC, MacRae CA, Itabashi Y, Katsumata Y, Goto S. Deep learning-based model detects atrial septal defects from electrocardiography: a cross-sectional multicenter hospital-based study. EClinicalMedicine. 2023 Aug 17;63:102141. doi:10.1016/j.eclinm.2023.102141.
5. Goto S, Katsumata Y, et al. Artificial intelligence-enabled fully automated detection of cardiac amyloidosis using electrocardiograms and echocardiograms. Nat Commun. 2021 May 11;12(1):2726. doi:10.1038/s41467-021-22877-8.
6. Goto S, Katsumata Y et al, Multinational Federated Learning Approach to Train ECG and Echocardiogram Models for Hypertrophic Cardiomyopathy Detection. Circulation. Circulation. 2022 Sep 6;146(10):755-769. doi:10.1161/CIRCULATIONAHA.121.058696.
7. Yagi R, Goto S, Katsumata Y, MacRae CA, Deo RC. Importance of external validation and subgroup analysis of artificial intelligence in the detection of low ejection fraction from electrocardiograms. Eur Heart J Digit Health. 2022 Nov 2;3(4):654-657. doi: 10.1093/ehjdh/ztac065.
本研究に従事している関係者
慶應義塾大学スポーツ医学総合センター
勝俣良紀、後藤信一
慶應義塾大学循環器内科
白石泰之、三浦光太郎
獨協医科大学埼玉医療センター
板橋裕史
共同研究機関
慶應義塾大学、東海大学、獨協医科大学埼玉医療センター、都立小児総合医療センター、Brigham and Women’s Hospital
研究費
1.JSR・慶應義塾大学医学化学イノベーションセンター(JKiC) 2021期学術開発プロジェクト、助成テーマ「心疾患克服に向けた、医療画像データ を用いた AI モデルの構築」
2.第49回(2021年度)三越医学研究助成(公益財団法人三越厚生事業団)、助成テーマ「心疾患克服に向けた、医療画像データ を用いた AI モデルの構築」
3.一般財団法人近藤記念医学財団2021年度学術奨励賞、助成テーマ「心疾患克服に向けた多次元データ を用いた AI モデルの構築」
4.第55回(令和4年度)大樹生命厚生財団医学研究助成 代表、「心疾患克服に向けた多次元データを用いたAIモデルの構築」
5.AMED橋渡し研究戦略的推進プログラム、助成テーマ「12誘導心電図を用いた心房中隔欠損検出技術の開発 -AIによる自動診断を用いて-」